「日本疼痛漢方研究会」 理事長から一言

濱口眞輔
(獨協医科大学医学部麻酔科学講座 教授)

 日本疼痛漢方研究会の理事長を拝命しました,獨協医科大学麻酔科の濱口眞輔と申します.
 日本疼痛漢方研究会は,痛みの治療における漢方医学の有用性に関する研究と臨床経験の報告を行い,会員同士の意見交換を通して痛みに対する漢方医学的な治療の普及を図ることを目的としております.1988年8月に開催された「第1回痛みと漢方シンポジウム」が本研究会の始まりであり,1995年の「痛みと漢方研究会」への名称変更を経たのちに,1998年から現在の名称に変更して現在に至っております.本会の理事長(代表理事)は初代の兵頭正義先生から始まり,麻酔・疼痛学領域のご高名な先生方が歴任される中,2024年度からは私,濱口眞輔が8代目の理事長としてその任を拝命しております.身にあまる重責ではございますが,精一杯務めますので,ご指導くださいますようお願い申し上げます.
 痛みの治療法には,いわゆる「西洋薬」による薬物療法や理学療法,運動療法,神経ブロックや手術療法などの多数の選択肢があります.しかしながら,選択肢として忘れてはならないのは東洋医学的なアプローチです.多くの漢方薬の中で痛みに対する効能・効果を有する方剤は意外なほどたくさんあるのです.患者さんの状態を適切に評価したうえで最適な方剤を処方することで,「西洋薬」を凌ぐほどの治療効果を実感することは決して珍しいことではありませんし,その劇的な効果を1回でも実感すると益々研鑽したくなる,いわゆる「ハマる」感覚が得られると信じております.また,日常臨床で痛みの治療に難渋した際には,全体的に患者の症状を捉える「整体観」の考え方に基づいた治療が奏功することは非常に多いと思います.「肘の痛み止めのために漢方薬を飲んだのに指まで良くなった!」とか,「そういえば漢方薬飲んでから冷える夜の痛みが少なくなった…」などの患者さんの言葉をお聴きになったことのある先生方も多いと思います.「整体観」に基づいた方剤の処方は非常に有効であり,近年問題となっているポリファーマシーの対策にもなり得るのです.
 このことを若手の先生に伝えていけたら,という思いも込めて,本研究会では痛みに有効な漢方医学の研究と臨床の情報交換を行っております.2024年11月5日時点の会員数は1,221名と非常に多く,麻酔科(ペインクリニック)のみならず内科,産婦人科,整形外科,緩和ケア科や歯科口腔外科などのあらゆる領域の先生方によって学際的な集会が催されております.また,査読審査を以て論文の質を担保している機関誌,「痛みと漢方」も年に1回発行しております.学術集会では漢方の古典的解説から最新のエビデンスまでがわかりやすく発表される機会も多く,痛みと漢方医学に興味のある会員の増加を期待して活動しております.
 以上,皆様からご指導ご鞭撻頂き,疼痛に対する漢方治療に興味を持つ先生方の垣根を超えたご参加を賜れますようお願い申し上げます.